キハ60車両概要

キハ60・キロ60について
 気動車の性能のよさが認知され始めた1960年初頭、そのころすでに気動車の出力不足が問題になっていました。勾配区間にはキハ51やキハ55のようなエンジンを2台搭載した車輌でなくては蒸気列車と大して変わらない速度で走ることとなり、エンジンの過熱や火災の危険性もありました。しかも当時はDMH17B・Cといった主流のエンジンは160馬力で、まだパワーアップがされていない状態であったためその悩みは殊に重大なものでした。そこで強力なエンジンの試作車として開発されたのがキハ60とキロ60です。
 車輌自体は当時の先端車輌であるキハ55を基本にしていますが、各部分に新機構が盛り込まれました。まず開発の最大目的であるエンジンはDD13に搭載されたDMF31Sを横型とし、改良したDMF31HSAとし、その出力はDHM17系の2倍以上の400馬力となりました。けれど、もともと機関車のエンジンであるためにサイズと騒音が大きく、カバーをつけるなど工夫をこらしていましたが、故障も多かったため1962年に早々とDMH17Hに取り替えられてしまいました。
 次に外吊扉の採用です。詳しい説明がなくても「キハ35で使われている扉」と言えばご理解いただけると思います。外吊扉は車体強度上問題となる戸袋をなくし、戸袋部分の窓を開閉できるようになるため、気動車には都合の良いものですが、その反面構造が複雑になると言う欠点があります。キハ60とキロ60に使用されたのは当然両開きではなく片開きで、扉一枚の幅はキハ35系より多少広い745mm(キハ35系は2枚で1300mm)で、現在のプラグドアのように車体外板と面一になるという違いもあります。この外吊扉はキハ60においては実用化に成功した唯一のものと言えるでしょう。
 次に紹介するのは新機構の台車です。気動車の台車は電車のものとは違い、駆動軸はエンジン側の片一方のみで、電車のように全ての車軸が回転するようにはなっていません。そのためエンジンから伝わったパワーは4つの車軸のうち1つのみ(1エンジンの場合)となり、効率的なエネルギー伝達とはいえない状態でした。そこで両方の車軸を動かせる台車を気動車でも作ることになったのです。それまで気動車用の台車にあった逆転機(エンジンのからの回転方向を逆向きにする装置、これがなければ一定方向しか動けない)を変速機に組み込み、ブレーキも従来の方式では推進軸を通せないためディスクブレーキを使用しました。また、キロ60用のDT25A/TR61Aは気動車初の空気バネ台車とし、乗り心地の向上を図りました。この2軸台車は現在でこそ多くの車輌で採用されていますが、国鉄時代は機関車のみに使用されただけで気動車には使用されずに終わりました。一方、空気バネ台車は碓氷峠のアプト区間を通過するために開発されたキハ57とキロ27で実用化されました。もちろんこれ以降も空気バネ台車の車輌は出ていますが、キロ60のものの影響は薄くなっています。
 最後に、変速機のことを紹介します。台車のところで紹介したように、それまで別々だった変速機と逆転機を変速機に統合したほかに、変速-直結の2段変速だったものを変速-直結1-直結2の3段にし、自動でその変速ができるものにしたのです。現在では当たり前の変速機の構造ですが、当時の技術では最先端のものでした。もちろん自動車でもそのような変速が一般的でない時代でしたし。この技術はこのあと実用化には至らず、キハ90・91を経てキハ181系で実用化されてゆきます。
 このような新機構が盛りだくさんのキハ60とキロ60でしたが、試作車の宿命と言うべき故障に泣かされ、エンジン、変速機、扉が普及品(DMH17H、DF115またはTC-2、戸袋式扉)に取り替えれ、一見キハ26と違いがないまでに変わりました。それでも一応1978年まで生き延び、ずっと千葉でその人生を過ごしました。


キハ60-1・2
全長
全幅
全高
重量
定員
21300mm
2803mm
3925mm

88人
エンジン
出力
台車(動台車/従台車)
便所
デッキ
DMF31HSA×1 ※
400馬力 ※
DT25/TR61
あり
あり
製造期間
製造輌数
消滅年
保存
1960年
2輌
1978年
なし
※ のちにDMH17Hに換装、出力180馬力

キロ60-1(キハ60-101)
全長
全幅
全高
重量
定員
21300mm
2803mm
3925mm

64人
エンジン
出力
台車(動台車/従台車)
便所
デッキ
DMF31HSA×1 ※1
400馬力 ※1
DT25A/TR61A
あり
あり
製造期間
製造輌数
消滅年
保存
1960年
1輌
1978年※2
なし
※1 のちにDMH17Hに換装、出力180馬力
※2 キハ60-101の消滅年キロ60は1967年

関連車両
キハ26
キハ55
キロ25
キロハ25