その2 ATSの付加機能


 初期のATSには様々な欠点があり、これを補うため様々な機能がのちに追加されました。ここではその中でも代表的なものを 取り上げてゆきます。


 @ 誤出発防止装置・直下地上子 


 1962年(昭和37年)11月に発生した羽越本線の事故や、ATSの全線整備完了以降、最初に発生した新宿駅構内の貨物列車 衝突事故 (1967年(昭和42年) 8月8日) をきっかけに、ATSの確認扱いをした後ブレーキ操作を誤った場合でも非常停止 するようにした追加機能です。場内信号機や出発信号機といった「絶対信号機」(停止現示のときは絶対進んではならない信号機) の真下にATS地上子を設置し、万一停止信号を越えた場合は再び警報が鳴り、非常ブレーキがかかるようにしました。
 以下の図は誤出発防止の場合の例です。
補足 開発された当時は警報が鳴るだけで停止させることは不能でした

 出発信号が停止現示なので、A点に設置された地上子により警報ベルが鳴ります。

 ブレーキ扱いをし、確認ボタンを押すとベルは鳴り止みます。

 そのまま駅に停止し、警報持続ボタンを押せば、チャイムも消えます。このとき、まだ出発信号は停止現示のままとなって います。

 まだ出発信号が停止現示となっていますが、列車は出発信号を越えて発車してしまいました。しかしATSは作動しません。 出発信号の現示に対してATSを作動させる地上子はA点しかないため、たとえ赤信号を越えてもATSは作動しないのです。

 そこで出発信号の真下にATS地上子を設置することで、たとえ出発信号を越えてもATSの警報が鳴るように し、非常ブレーキをかけて進入させないようにします。この仕組みは場内信号機の真下にある場合も同様です。
補足 開発された当時は警報が鳴るだけで停止させることは不能でした
 

 A 電源未投入防止装置


 1968年(昭和43年)2月15日、東海道本線米原駅構内で発生した衝突事故をきっかけにこの機能が追加されました。この事故は 下り貨物列車と、信号無視で発車した下り電車が衝突した事故だったのですが、信号無視をした電車のATSの電源が入って いなかったことによりATSが作動せず信号無視を許してしまったのでした。この電車は上り列車で米原到着後、転線した のちに下り列車となっていたのですが、この転線の入換時にはATSの電源を切ることが基本で、転線後再びATSの電源を 入れ忘れていたことにより発生した事故でした。そのため入換時など、極めて低速で走行する場合を除き、ATSの電源が 入っていない状態で運転 (電車では3ノッチ以上) すると警報ベルが鳴るようにしました。この電源未投入装置は、翌1969年 (昭和44年)から追加されました。

 通常はATSの電源は入った状態で運転されますが、転線や入庫の場合は電源が切られた状態となっています。

 この状態ではたとえ進路がふさがっていようと、信号が停止を示していてもATSは作動しません。

 なお、現在では「入換用」のATSがあり、全く無電源で走行することはまずないようです。

 B 警報持続装置

 その1でのATS操作では警報持続装置が搭載された状態で解説しましたが、もともとATSの登場時にはこの警報持続装置は 搭載されておらず、警報ベルが鳴り、確認ボタンを押したあとは非警戒時と同じ状態に戻ってしまいました。特に主要幹線に おいては制動距離の長い貨物列車などのため、ATS地上子が信号からかなり離れた場所に設置されている場合もあり、操作に 慣れてしまうと警戒状態であることを忘れてしまう事態が発生したため、確認ボタンを押すと「キンコンキンコン」という チャイム音が鳴り、警戒状態であることを知らせる警報持続装置が開発されました。
 この警報持続装置は原則として停止するまでは解除できませんが、しかしながら不正に解除しても非常ブレーキなどはかからず、 確認ボタンと同様に一連の操作に慣れてしまうと注意力が薄れてしまう欠点がありました。しかし全く注意喚起をさせる状態が なくなるよりは良いため、1969年(昭和44年)からすべてのATS搭載車輌に追加しました。


 これらの付加機能をつけたATSでもまだまだ不十分な部分があり、特に速度に関しては全く関知できない状態でした。それはこの段階のATSが信号現示とブレーキ操作などのみにしか反応できなかったためで、これに速度に対応する機能をつけたATSが必要とされゆくのでした。

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