関東から長野方面に向かうルートは2つあります。1つは中央本線を西に下り、篠ノ井線を北上する方法。もうひとつが高崎線から信越本線に入って向かう方法です。中央本線はいたって普通の路線なのですが、信越本線にはある特殊な事情がありました。有名な碓氷峠を越える横川-軽井沢の区間です。この66.7‰という特殊勾配区間には数々の知恵がしぼられ、初めて電気機関車が投入されたのもこの区間です。気動車列車もその勢力を全国的に拡大していましたが、この区間だけは立ち入ることのできなかったのでした。それは当時の輸送方法によるものです。66.7‰という勾配を越えるのは当時通常の機関車では不可能で、線路の中心にラックレールという歯車を噛み合わせる特殊な線路を敷き、このレールに噛み合わせる歯車を持った機関車が使われていました。気動車も客車と同じくこの特殊機関車に牽引されるのですが、気動車の台車には客車とは異なってさまざまな装置があり、その中でブレーキ装置がこのラックレールに触るためそれまでこの区間を通ることができなかったのです。
これを解決するために登場したのがキハ57とキロ27の信越用車輌です。まず台車の中で支障となっていたブレーキ装置を改良し、キハ60で試作していたディスクブレーキを使って解決しました。また台車のばねも空気バネを使用しました。その他の部分についてはキハ58と同様になっています。
1961年に運転を開始したものの、この信越アブト区間用という特殊な任務も2年後の1963年にアプト式の廃止によりその存在意義を失ってしまいました。DT31台車も高価なため増備は36輌に終わり、キハ58に混じって使用されてゆきました。しかし他に空気バネ台車の急行型はキハ65まで登場せず、数少ない快適な車輌として生き残り、最後の車輌はJR後に遠く四国で廃車となりました。
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