戦争と鉄道2023

 このテーマは コラム010 でも取り上げていますが、昨今の国際情勢からもう一度取り上げました。
 鉄道が戦争と関りが深いのは物資輸送においてその量と速度が速いこと、特に移動に時間がかかる重火器の輸送において重要な役割を果たしています。 昨年勃発したウクライナ侵攻においても、ロシアがクリミア半島で『演習』していた戦車部隊を『撤収』させる映像が公開するなど、まだまだ鉄道が 戦争にとって重要な役割を果たしていることを改めて実感することとなりました。また、ロシア側では簡易ではあるものの、線路警備のための装甲列車の ようなものまで登場しています。
 鉄道は兵器や兵員もですが、むしろ弾薬や食料、燃料などの補給物資の輸送路としての価値の方が重要とされています。そのため戦場が地続きである 大陸においては鉄道を守るための列車、装甲列車というものが古くから存在してました。鉄道は輸送量や早くに優れている反面、攻撃には極めて脆弱です。 通常の列車であれば武装ももちろんしていませんし、防御の装甲だってありません。従ってゲリラなどが車輛を襲えば当然行動不能となりますし、 車輛を攻撃しなくても線路を破壊するだけで輸送を止めることは容易です。また、線路上を走る列車は、攻撃を受けると逃げ場は基本的にありません。 また、物資が集積した状態でその場にとどまることになるので、そうした場合の損失も大きくなります。そうした攻撃 (特に地上からの) から鉄道を 守るためにできたのが装甲列車でした。しかしこれも空からの攻撃には弱く、戦車ほどの装甲は持っていないため第2次世界大戦の中期以降になると 次第に姿を消していきました。また、あくまで鉄道の防御が目的であったため、装甲列車が攻撃の中心となって戦うようなこともなかったと思われます。 しかし、飛行機がまだ発達していなかった第1次世界大戦においては、鉄道は強力な兵器が活躍する場となっていました。それが列車砲です。
 列車砲とは、シキのような大量の車輪のついた車輛に大口径の砲 (巡洋艦以上戦艦以下の主砲の口径) を積み込み、線路上においてこれを発射する というものでした。つまり、軍艦が入り込めない内陸部において軍艦クラスの巨砲を使うというもので、ただでさえ道路や橋が脆弱な当時において 内陸部で使用する最強の兵器となりました。列車砲の場合は一度照準を定めると、ほぼ同じ場所に着弾させることが可能になるため、要塞など強固な陣地を 攻略するのに使用されました。しかしこれも飛行機が発達し、それと同程度の爆弾を搭載できる爆撃機ができるようになり、さらに地上を攻撃する戦闘機や 爆撃機の性能も向上したことから次第に時代遅れるものとなっていきました。もはや鉄道から攻撃を仕掛ける時代は終わった。そう思っていたらまさかの 復活があったのです。北朝鮮のミサイル列車です。これは列車砲のようにどこからどう見ても兵器であるとわかるものではなく、一見すると"ワキ"クラスの 大型有蓋車であるものが、まるでトランスフォーマーのように天井が開き、中からミサイルが起き上がって発射するというものです。実際これを どれほど本気で運用するのかわかりませんが、通常の貨車に偽装するなどしているところから判断すると、奇襲的な使用法をするものと思われます。 あるいは、地方など道路や橋といったインフラが整備されていない、あるいは老朽化しているような場所で展開するためとも考えられます。しかし 先ほどから述べているように、鉄道は特に空からの攻撃には極めて無力です。しかも現代ではミサイルによる高速攻撃であったり、ドローンによる 小型兵器による攻撃などその防御はさらに困難なものであると言えるでしょう。平地の線路であれば攻撃されてもすぐに復旧できるでしょうが、 橋を破壊されたり、山がちな北朝鮮であれば、トンネルの坑門付近を破壊されたりすればその路線はしばらく使用できなくなるでしょう。 もちろんこれは輸送や補給においても同様です。現代においては、戦争となれば鉄道が安全に運行できる場所はなくなってしまうのです。
 戦争とは破壊そのものです。それはモノだけでなく、文化や心までも破壊するものです。今世界が注視しているのはウクライナですが、世界全体を見ると 様々な国や地域で『内戦』『紛争』など様々な名前の戦闘が起きています。それは距離や時期によって人々の関心が変わり、薄れることでより長期化し 人々を苦しめることになっていきます。戦争はもちろん、内戦や紛争と言った全ての戦闘行為が地球上から無くなるのが一番いいのですが、残念ながら それはできないでしょう。それが人間という生き物の残念な性質であり、仮にそれが実現するところまで行っても何かわずかなほころびが生じると、 そこからまた元に戻ってしまうでしょう。せめてその被害を最小限にとどめるため、私たちは過去の過ちを振り返り、同じ過ちを起こしてしまわないように 努力しなければなりません。間違っても、過去の栄光を取り戻そうと考えてはならないのです。それこそがすべての誤りの発端なのですから。
きはゆに資料室長