戦争と鉄道

   8月、ということでこういうテーマを選びました。このサイトへお越しの皆さんは、おそらく1回ぐらいは鉄道車輌の写真を撮ったりそういう写真が載った雑誌などを読んだり、または車窓からの風景を楽しみながら旅をされたりしたことがあるかと思います。しかし戦争、または戦時下となれば、こういった行為は著しく制限され、場合によっては罰せられることもあります。日本でも日中戦争が始まった昭和12年ごろからこういった規制が強化されてゆき、鉄道趣味にとって暗黒の時代となったのです。
 そもそもなぜ鉄道がこのような制限を受けるのか、という疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれません。けれど時代や国を超えて、鉄道が軍事上重要なものであることは共通なのです。現在の日本では幸いそういった認識は低く、また、軍事物資を鉄道輸送することもなくなったため厳しい制限はされていません。しかし紛争地域や準戦時国において鉄道とは軍事施設と同様に扱われ、写真撮影などは厳しく制限されます。これは軍事物資を輸送するというほか、国民生活にとって食料や燃料など重要な物資の輸送、一般人はもちろん兵員の輸送がされるなど国が生き残ってゆく上で重要な位置付けがあるためです。たとえば鉄道車輌の場合、その車輌の性能や外観上の特徴などを敵に知られることは何を運搬している列車なのか、速度はどのくらい出るのか、破壊すれば重要な打撃を与えられることができる車輌かということがわかることを意味します。さらに鉄道の配線の場合はさらに重要な意味を持ち、ある一部を破壊すれば列車をすべて運転できなくさせることすら可能となってしまいます。そういった情報の流出を防ぐために厳しい制限が涸れられるのです。
 では旅行をする点では何も問題はないのでしょうか。答えはNOです。戦時下に入ると軍事目的が優先になりがちです。前の戦争のときは軍事物資輸送の列車>兵隊輸送の列車>一般貨物列車>一般旅客列車という順位になり、一般人が利用する旅客列車は本数を減らされたうえにダイヤ上も他の列車を優先されなければなりません。こういった優先順位以前に一般旅客の移動自体が制限され、切符を手に入れることができなくなります。また、切符を手に入れることができても楽しく旅をする、といったことはできません。たとえば、瀬戸内海など船が頻繁に行き交う海に沿う路線では海を眺めることはできません。工場地帯なども同様です。これは写真を撮った場合も同様なのですが、海の場合は船を見ることが禁止されており、工場地帯の場合は工場などが秘密保持の対象となっている場合があるためです。もちろん空港を含む軍事施設付近は当然見ることはできません。日本では戦前、「軍機保護法」と「要塞地帯法」という法律によってこういったことが決められていました。どちらの場合も刑罰自体はそれほど重いものではなかったのですが、その容疑で捕まると、厳しい取り調べが行われて長い間拘留されるとともに、無実が立証できたとしてもしばらくの間警察などに尾行されることになります。もちろん無実が立証された場合でも写真などは没収されます。
 鉄道が重要なターゲットとなっている以上、鉄道車輌に損害が発生するのも自然なことです。日本でも空襲によって多くの車輌が戦災に遭い、使用できなくなったり本来の力を発揮できないまま走り続けたりすることで次第に疲弊してゆきます。車輌や鉄道施設に使用する物資も軍事物資に優先されるため、鉄道には別の材料で代用したり、規格の低いものを使ったりするため車輌やレールなどや早くいたみます。機関車廃車のところでも述べていますが、日中戦争がはじまった頃日本から中国へ鉄道車輌が渡ってゆきました。やがて戦線が拡大するとともに海南島やタイ・ビルマにも渡り、ほとんどは再び日本に帰ってくることはなかったのです。こうして外地に渡ったのは機関車では9600、C50、C51、C56、D50、D51、気動車ではキハ42000(のちのキハ07)、キハ40000、貨車となると車種を特定することも困難です。一応現在は憲法第九条のおかげで外国へ攻めるということは発生せず、現在日本国内にある車輌を外地へ持ってゆくということはないはずですが、最近の不穏な動きではそれも危ういのかもしれません。
 現在イベントなどで押しあいへし合いしながら写真を撮ることや、自由に日本各地を旅行して車窓から風景を眺めること、さらにある特定の車輌を追うことができるのがどれだけ幸せなことか、こういった事態になれば痛感することでしょう。もちろん「そういった」事態がなく、自由に写真撮影や旅行が続けられるのが一番いいのですが。平和って大切です。もちろん鉄道に限ったことだけでなく。


きはゆに室長