気動車の定義

 突然ですが皆さんに質問です。皆さんは「気動車って何?」と聞かれたらどのように答えますか?多くの方が「ディーゼルエンジンで走る車輛」と 答えられるのではないでしょうか。けれど最近、そう一言で答えられなくなってきていることに気が付きました。

 もう少し詳しく答えるとすると「お客を乗せてディーゼルエンジンで走る車輛」としたらディーゼル機関車と区別して答えることができると思います。 手っ取り早く「線路の上を走るバス」というような表現もあるでしょう。しかし最近の技術革新により、ディーゼルエンジンが主たる動力源ではない 車輛も誕生しています。端的に言えばキハE200のようなハイブリッド車のことです。ハイブリッド車が電気式気動車と異なるのは電気式が常にエンジンを 稼働させ、電気を供給させ続けなければならないのに対し、ハイブリッド車では蓄電池に充電もするためエンジンを切った状態で走行することも可能ですし 回生ブレーキの要領で充電することもできるためディーゼルエンジンを常に使用し続ける必要はありません。ただ、ハイブリッド車の場合はまだエンジンを 搭載し、駆動用にエネルギーを供給するためまだ「気動車」の分類に入れることができると思います。けれどもエンジンほとんど使用しない、または 全く使わない場合はどうなるでしょうか?

 JR西日本の試作車のSmartBESTは基本的に自車の蓄電池から電気を供給し、それでモーターを動かす車輛となっていてエンジンと発電機も 装備していますがこれはあくまでも蓄電池容量が低下 (バッテリー切れ) したときの非常用で、充電は回生ブレーキによるもので賄うようになっています。 つまり正常な運転を行う限りはエンジンをかける必要はなく、運転行程においてエンジンをかけることなく終了することもあり得ます。
 一方、JR東日本のEV-E301系は回生ブレーキのほか架線から充電する方式となっており、エンジンと発電機は完全になくなっています。もっとも、 EV-E301系の場合は架線下 (電化区間) においてはパンタグラフ集電で走行し、非電化区間では蓄電池を使用しいくつかの駅において設置された架線から 充電する方式なので根本的に気動車の概念とはかけ離れています。
 結論から言うと前者の場合は気動車とされますが (国交省の見解も同じ) 後者の場合は「蓄電池車」または「非電化区間も走行できる電車」となります。 やはり気動車にはエンジンは不可欠で、その使用頻度が非常用程度であっても (単純な発電用ではなく) 駆動系に繋がっているのであれば「気動車」であると されるようです。モーター音のみでエンジン音が全く聞こえない車輛が誕生しても、非常用発電用のエンジンを搭載していればそれは「気動車」ということに なります。将来「昔の気動車はエンジンの音が常にガーガーと鳴ってうるさかった」という昔話をすることがあるのかもしれません。

 これで結びに入り終わるところですが、またもや気動車の定義とは何ぞや?と困らせる車輛が登場しましたのでとりあげてゆきます。

 その車輛とはキヤ143です。この形式だけ見れば事業用気動車と何の疑いも認識しますが、問題はその用途と構造です。キヤ143はDD15の後継として 開発された車輛となっています。つまり除雪用車輛、今までの事業用気動車にはなかった用途です。さらには構造もJR東日本の除雪モーターカーのような 箱型車体で、ラッセルヘッドを取り外して使用することも念頭に入れられています。つまり極めて機関車に近い気動車なのです。これは用途だけでなく、 動力系の配置にも表れています。特に「除雪用」ということであるためエンジンが床上に配置され、変速器以外の部分は床板が張られた状態となっています。 これまで気動車と言えば「エンジンが床下にあるもの」というのが定義だけする一つの条件でもありましたが、今回この条件が打ち破られました。もっとも、 過去に気動車であっても床上エンジンの車輛はありました。気動車黎明期のキハニ36450です。
 この車輛は車輛の一方の台車上 (もちろん床上) に大型のガソリンエンジンを乗せた電気式で、機関室の屋根上には放熱器が設置されていました。 一応旅客車なので客室はありましたが、機関室 (と荷物室) が結構なスペースを占めており、全体の1/4ほどを占めていました。さらにさかのぼれば、 「気動車」の語源となったといわれる「蒸気動車」は小型蒸気機関車と客車が一体となったものなのですから、もちろん床上に小型のボイラーをあります。 これらの車輛の存在から別に床上にエンジンがあっても問題ないのでは、というご意見もあるかもしれませんが、これらの車輛は気動車黎明期のものであり、 気動車の歴史は小型エンジンの開発と床下への設置の歴史であり小型エンジンを各車輛に分散させた動力分散化の歴史でもあります。しかも今回のキヤ143の 場合、エンジンが床上であるだけでなく、事業用のため客室スペースがなく、居住スペースも中央部が機関室となっているため運転台付近のみと完全に 機関車と同じレベルとなっています。
 用途も車体構造も機関車であるのに形式は気動車。それがキヤ143なのです。たしかに運転室は旅客車と同じような内張りがなされ、マスコン・ブレーキなど 運転機器も気動車と同じようになっています。エンジンもキハ189系と同じものが使用されており、現在使用している気動車と部品の共用ができるように なっています。また、キヤ143が機関車とは異なると主張できる唯一の点がトイレの設置です。これまでSL、EL、DLが数多く輩出されましたが、 トイレのある機関車は存在しません。一方、事業用車にはトイレが設置されている例は多数あります。ということはこのトイレの存在が気動車か否かの 分かれ目?!ちょっと納得できません...。結局のところ、動力車免許の都合なのかもしれません...。余談ですが、このキヤ143とDD15の性能の比較を 最後にまとめてみました (比較できるデータのみ)。

 技術革新と用途の多用途化により、もはや「電車」、「気動車」、「機関車」といった区別は無意味なのかもしれません。ただ、趣味的な観点としては 「これは気動車?電車?機関車??」といった迷いは残ります。架線集電の蓄電池式の除雪車輛なんかが出た日にはどうなることやら...。 いや、将来新たなファン層にとっては「気動車」という語が死語になっているかもしれません。まぁ、線路上を走るものをすべて「電車」で呼んでしまう 時代ですから、無理もありませんが。けれど、JR西日本では豪華リゾート客車を計画していますし、その牽引機が「気動車」「電車」ということは...。 う〜ん...抵抗があります...。やはり気動車・電車と機関車の区別だけは、はっきりしていただきたいな...。


キヤ143 DD15
最大長
(ラッセル装着時)
26825mm 21200mm
最大長
(車輛本体)
19860mm 13600mm
最大幅 2989.2mm 2926mm
最大高 4087mm 3880mm
自重
(ラッセル時・空車)
55.4t 60.0t
機関 SA6D140HE-2(×2) DMF31SB(×2)
出力/回転数 450馬力/2100rpm 500馬力/1500rpm
最高運転速度 75km/h 70km/h
台車 WDT68 DT113系
燃料容量 2000リットル 1500リットル
きはゆに資料室長