鉄道公報

 前々回のコラムにおいて履歴調査が行き詰っていると書きましたが、 あれからある進展がありました。「鉄道公報」との出会いです。 この鉄道公報とはその名の通り鉄道版の公報なのですが、これまでは その存在を耳にしたことはあっても実際どのようなものかは知りませんでした。
 そんなある日、古い鉄道雑誌を求めに入った交通関係の古本屋でこの鉄道公報が 売られていたのです。見た目から期待半分、諦め半分...という感じで 購入してみました。

↓その一部

昭和40年2月13日 (通巻4626号)

 一応目当ての車輛の転属・改造・廃車等の情報はありましたが 残念ながら廃車は局単位、それ以外については支社単位という極めて大雑把なものでした。 また、これは土日休刊の日報であるため、いつ知りたい情報が記載されたのかはわからず、 そもそもこれをまた入手できるかという問題がありました。ただ、鉄道博物館に マイクロフイルムに移された鉄道公報があるとは聞いていましたので、それを調べれば... と思っていましたが、調査にどれぐらいの時間がかかるかもわかりませんし、そもそも そんなに頻繁に大宮に赴くこともできません。
 そんなこんなで時が過ぎ、大阪の交通博物館が閉館することとなり、それに向けた企画展 「曝涼(ばくりょう→虫干しを兼ねた公開のこと) 展」をまだ残っていた調査のついでに見学しました。 すると、そこに昭和30年の鉄道公報も展示していたのでした。その時はもう図書室は閉室 していたので、次の機会に尋ねてみると、やはり所蔵しているとのことでした。 ちょうど知人から1960年前後の客車の配置がわからないという相談も受けていましたので、 この調査も兼ねて鉄道公報を調べてみることにしました。
 鉄道ピクトリアルに気動車の新製・転属・改造・廃車が本格的に掲載されるのが昭和37年4月分から (昭和37年12月号より) となっていますので、それ以前のデータについては車輛配置表からの 推定による「年度」単位のものしかなかったのですが、鉄道公報のデータを調べれば配置区自体は 推定となるものの、年月日についてはほぼ断定することができます。ただ、「支社」をまたぐ 転属などに限られるため、局内、それどころか支社内の転属はわからずじまいなのが残念な ところですが、それでもより確実なデータとなりうるものですので調査をし、データを蓄積 することとしました。始めてみると、気動車のデータについては古い時期では季節ごと (廃車を除く) となっており、それほど多いものでもありません。ところが客車の方はある程度まとまった段階で 一気に処理をするようで、発表のペースは気動車より多少多い程度ですが、その量はかなり多めと なっていました。特に改造についてはオハネ17やマニ60への改造が最盛期という時期のため、 これの処理に多くの時間を費やされる感じとなりました。

 この調査では鉄道公報の奥深さ、というよりも恐ろしさを実感することとなりました。 上の画像のように、鉄道公報に記載されているのは実に多岐にわたるもので、車輛の動きなどは ほんのごく一部に過ぎません。つまり国鉄の業務に関するありとあらゆることについて 周知徹底すべきことを知らせるものですから、車輛の動き、路線や駅に関すること、列車の 設定や編成、乗車券類の様式といった鉄道趣味的に興味のある物のほか、各種関係法令、人事、 賞罰や未使用乗車券の紛失までが記載されています。もちろん今書いたもののほかにも ありとあらゆるものがありますし、国鉄は自動車 (バス) や船舶 (連絡船) も持っていましたので そちらの方面の情報も多く記載されています。その中には意外な発見があったり、思わぬ 掘り出し物の情報を見つけたりと、一度見てしまうと鉄道好きには時間がどれだけあっても 足りなくなることは必至だと思います。
 たとえば、貨車の廃車などは鉄道雑誌においてもごくまれに記載されていたことはありましたが 基本的にはわかりませんが、鉄道公報ではそれがバッチリとわかります。列車でいえば、 長距離の優等列車では途中で給水する必要がありますが、その給水をする駅が号車ごとに 指定されており、ダイヤ改正のように変更があればこれで通知されます。臨時列車の設定では 基本的に停車駅のみの簡単なダイヤとなっていますが、市販の時刻表とは異なり秒数までが 記載されています。郵便車が連結された列車については、その郵便車が「ユ」なのか「ユニ」 なのか「ハユニ」なのかも記載されています。貨物列車だと、その列車の定数 (現車・換算)、 連結する緩急車 (車掌車) が特定の形式なのかワフなのかといったことが記載されています。 駅関係ではある駅での貨物・荷物扱いの廃止などが記載されていますので、その駅の歴史を 詳しく知ろうという方は必見です。乗車券類では見たこともないキップ類 (外国人用など) も その様式が記載されており、一般の切符の様式変更もいつどのように変わったかがわかります。

 ...とまぁ、思いつくものを書き散らしていてはスペースの無駄ですのでこれぐらいに しておきますが、一度見てしまうとやみつきになります。ただ悲しいのは、これがどこで 見られるのかがよくわかっていないことです。私の知る限りでは大宮の鉄道博物館と大阪の 交通科学博物館の2か所だけですが、それももうすぐ1か所となってしまいます。交通科学博物館が 4月で閉館となる前に、図書室が3月いっぱいで先に閉鎖となってしまうためです。 これらの図書館も開館が原則土日だけというのも辛いところです。一応予約をすれば平日も 利用が可能ということのようですが、なんとなく...利用しづらいです。また、鉄道公報が ある場所を見つけてもおそらくコピーは不可能と思われますので (両博物館とも複写は不可) 全て手書きで写さなくてはなりません。探す資料自体もある程度の目星をつけておかねば膨大な 公報から探さねばならず、大変時間がかかってしまいます。一応各月ごとに目次が付けられて いますが、その情報量も多岐にわたっているため、探したいものが明確でない場合探すのが大変です。 反復的なデータを探す場合、ある程度慣れてくれば探しやすくなりますが、ある特定の何かで あれば結構大変です。
 探すのは大変ですが、探し出せば100%とはいかないまでも何かしらの収穫が得られるもの。 思いがけず「へぇ〜」という情報を知ることができるもの。 もし、目にすることができる機会があるのならぜひ見ていただきたいもの。それが鉄道公報です。 鉄道公報、必見です!
きはゆに資料室長