節電

 震災による原発事故を発端に東日本はもちろん、西日本でも節電が奨励され、企業、家庭を問わず何らかの節電を心がけています。これは電気を多く消費する 鉄道においても行われ、西日本でも東日本ほどではないにしても、節電が行われています。ただ、この「鉄道の節電」においてふと頭をよぎった事がありました。 『車輌の照明・冷房の抑制』は効果があるのだろうか?と。

 なぜこのように考えたのかと言うと、車輌の照明や冷房で使用する電気は架線の電気を直接使用することは出来ず、変換装置を経由しなければならないからです。 つまり、直流1500Vの電気を交流100Vや交流440V (冷房用) に変換しなければ使えないのですが、この変換に使うMG (電動発電機) は使用電力の変化を問わず 一定の電気を消費するものではなかったか、ということです。MGの原理は単純で、高圧直流モーターに低圧交流発電機をつなげたもので、要はモーターで発電機を 回すものなのです。ここで問題となるのがモーターを動かす電気を抑える事が出来ない、ということです。使用する電気の量が少なければモーターの電気も減らし、 発電する量を減らせばいいのではないか、ということになりますが、MGの場合モーターの電気の量を減らすと当然回転数は少なくなり、発電機の回転数も減ります。 このとき発電する電圧も減りますし、さらに交流電気の周波数も変わってきます。電圧の低下だけでなく、周波数の変化は使用する機器に大きな影響を及ぼすため このような方式は使えないのでは、と考えたのです。したがって、MGを通して作られる車内の照明や冷房の電気消費量を抑えても、MGを回す電気使用量は変化しないのでこの節電方法は効果はないのではないかと いう仮説が出てきたのです。
 このような場合、いくら車内サービスの電気使用量を減らしてもMGに使われる電気量は変わらないので、サービスは維持するかMG搭載車輌を編成から抜くか という二択しかなくなります。ただ、MGを搭載している車輌はM車の場合が多く、しかも国鉄型車輌の多くはユニットを組んでいるためこれを抜くとなると M-M’の2輌を抜くことになり、編成出力にとって大きな痛手となります。むろん、ローカル線など最低編成輌数で運行している列車では言うまでもなく不可能と なります。

 では、これらの車輌サービスの節電は単なるパフォーマンスなのか...となるのですが、もう少し調べてみると、単に私の知識が古いだけという事がわかり ました。

 それに気がついたのは冷房化改造などにおいて書かれていた「SIV化」や「インバータ化」というものです。国鉄型車輌が車内サービスで使う電気は すべてMGを通して供給されていましたが、非冷房のままJRに承継された車輌 (103系や115系など) では、JR後に冷房改造が行われました。その際、 従来のMG方式ではなく、新しい方式の電源変換装置が導入されたのでした。
 この方式はいくつかあり、大きくくくると「インバータ方式」と「DCコンバータ方式」に分けられます。上述のSIVは「静止形インバータ」で、一般に 「インバータ化」と書かれている場合も同様であると思われます。このインバータとはモーターと発電機をつなげて変換するという物理的・電気的なものではなく、 半導体を使った変換方法です。作用はMGの場合と同じく高圧直流電気を低圧交流電気に変換するものですが、MGと違いインバータでの電気使用量はここから 出力される電気の使用量―つまり照明や冷房などの使用量―に比例します。そのためMGに比べると車内の節電効果は架線から得る電気の節電に直結するため 節電は意味を成します。
 一方、DC-DCコンバータとは、架線の直流電気を降圧してそれを車内サービスの電源に使用するものです。この方式の場合、使用する冷房などの機器は交流 ではなく直流の電気を使うため、従来の機器をそのまま使用することは出来ません (別途インバータなどで交流に換えれば可能)。したがって、従来MGを使用 していた車輌をこのDC-DCコンバータで冷房化するには手間がかかるため、非冷房車の冷房化改造はDC-DCコンバータよりもSIV化が多く導入されています。 このSIV化は非冷房車の冷房改造の場合だけでなく、リニューアル工事において実施される場合もあるため、国鉄時代に冷房化された車輌であってもSIV化 された車輌が存在します。言うまでもありませんが、JR後に登場したほとんどの形式はSIVによって給電されています。

 結果、まとめると、MGを使用している車輌については車内での節電は効果がなく、編成減により節電効果が発揮され、SIV方式であれば車内での節電は 効果があるということがわかります。DC-DCコンバータについても節電効果がある程度は可能のように思われますが、この方式を多用しているJR東海では SIV方式の313系とDC-DCコンバータ方式の211系が節電対象となっていますが、同じくDC-DCコンバータの311系は対象となっていません。これは DC-DCコンバータの問題なのか、冷房制御の問題なのか、はたまた車輌運用の問題なのか (昼間は使用しない??) わかりませんが、211系が対象になっている ということは全く無意味ということはなさそうです。いずれにしても、JR後の車輌であれば節電を実施することは効果的であり、国鉄型車輌についても一部の 車輌においては効果があるということです。また、私鉄においては古い車輌も結構多く残っている反面、長大な編成が昼間でもそのまま使用されている事があるため 編成減で対処することが多いようです。なお、交流電車 (交直流は含まない) についてはこれらいずれの方式もとっておらず、主変圧器から別の回路で低圧の 交流電源を得ており、こちらも節電の効果は結びつきます。

 節電が大きな目標であったこの取り組みですが、逆にサービスとしては良い方向になっている模様です。従来の設定温度では寒すぎるという苦情がよく寄せられて いたものの、この節電による設定温度の上昇によりこうした苦情は減ったということです。一方暑いという苦情はほとんどなく、今までがいかに寒すぎたのか ということを改めて感じさせる結果になりました。暑い日が続きますが、皆様もあまり無理をなさいませんようお見舞い申し上げます。
きはゆに資料室長