鉄道雑誌における東日本大震災被災報道

 3月11日に発生した東日本大震災では鉄道にも甚大な被害をもたらしました。そのことは新聞・テレビで報道されていますが、一方の 鉄道雑誌はこの震災をどのように取り上げたか比較してゆきます。

 鉄道雑誌はほぼ全てが月刊誌で、震災発生から直近の号 (5月号) でこの震災の記事を組むことは不可能でした。ただし、編集後記など文字欄において 地震の発生を伝えるとともに、犠牲者の冥福を祈る文章が掲載させたことは各誌ともに共通していました。
 翌6月号においてはファン誌ではJR東日本などから提供された被災写真を掲載し、不通・被災状況を地図上で示すなど情報収集と発表はしましたが、 独自取材や撮影は行われていません。ピクトリアル誌においてはファン誌と同様JRからの提供写真をファン誌よりも大きなサイズで掲載したものの、文章 記事は一切なし (編集後記は別)。一方ジャーナル誌は本文に掲載された写真についてはJR提供のものを使用しているものの、記事文章については詳細に 述べられており、RailwayTopicsにおいては見開き2ページを用い、読者からと思われる写真を掲載して各方面の被災状況や運休などの影響を伝えています。
 7月号ではファン誌、ピクトリアル誌ともに新たな独自記事はなく、あったとしてもそれまでに掲載した記事の続報であったりと、それまでの何事も なかったかのような状態に戻りつつあります。一方でジャーナル誌は東北新幹線、ひたちなか海浜鉄道、大槌町内の山田線の3記事を掲載。写真も独自の もの (自社カメラマンか読者提供なのかは不明) を使用しています。RailwayTopicsにおいても引き続き震災関連の文章が掲載されており、震災報道として 唯一継続して報道しています。なお、ファン誌においては毎年恒例のJR各社車輌データバンクが掲載される号でしたが、震災の影響によりJR東日本の分が 翌8月号に掲載とずれ込んでいます (JR貨物については震災の影響としながらも、昨年に引き続きデータの提供が受けられない状態です)。

 このように鉄道雑誌主要3誌における震災後の誌面をざっと紹介しましたが、鉄道の被災状況と正面から向き合っているのがジャーナル誌1誌のみというのが 残念です。確かに趣味誌の取材のため被災地をうろうろするのは問題ですし、九州新幹線全線開業、ダイヤ改正など特集となるべき出来事があるなどやむを えない事情もありますが、数ヶ月経った状態であれば改めて震災被害を振り返り、今後の課題と復興を考えてもいいようにも思えます。楽しいことばかりを 追い求め、厳しい現実については目をそらすということはしてもらいたくありません。鉄道雑誌は読み捨ての週刊誌ではなく、その月その月の記録であり、 長く保存されるものであります。将来、この震災被害について調べる際、震災報道が画一的、限定的であれば、記録媒体としてはその役割を果たしていません。 現在はそれでいいとしても、将来その価値を下げることになります。また、このような流れが進むことにより、より誌面は今の流行であったり人が集まるような 話題のみとなってしまいます。そのような記事ならばインターネット上でも目にする事が出来ますし、紙媒体が抱えるタイムロス (特に月刊誌ということが) を 考えると大衆迎合した記事のみの雑誌は衰退の一歩を辿ることになると思います。もちろん節度ある取材を心がけ、鉄道だけでなく被災地など地元の方々の迷惑や 苦痛とならないように (取材だけでなく誌面での表記などにおいても) 配慮しなくてはなりません。ですが、「配慮・自粛」を名目に取材することを放棄することは 決して好ましいことではありません。もちろん、各誌がそれぞれのポリシーをもって誌面を展開しているのですから、それぞれに得意な部分、不得意な部分が あるかもしれませんが、だからと言って「ウチには関係ない」という道理が通るような規模の災害ではありません。これは取材・記録すべきものなのです。 もっと言うならば、採算を度外視してでも残しておくべきものなのです。あくまでも普通の報道機関は鉄道の専門知識を常に保有しているところではなく、 被災前の鉄道の状況についてもそれほど知っている立場ではないと思います (地元の新聞社やテレビ局などを除いて)。鉄道の被害状況を詳しく調べる事ができ、 それまでの状況と比較できる知識や資料を持っているのが鉄道雑誌の強みなのです。それを今まさに果たしているのがジャーナル誌であり、まさに「鉄道の将来を 考える専門情報誌」と掲げるにふさわしい態度をとっています。ジャーナル誌においては今後も震災関係の連載を続けていただき、他誌については分野違いと 完全に手を引くのではなく、ある時期にまとめのような感じでもこの震災に関することを独自の記事で発表していただきたいです。

 なお、この震災における鉄道被害の特集を最初に取り上げた雑誌は、以前このコラムでも紹介した「東洋経済」誌です。2011年4月16日号 (4月11日発売) において 他の経済記事もある中で31ページにわたり「被災鉄路の再建」「被災者輸送を行った三陸鉄道」「各地の天災による廃線の危機の現状」「部品不足による運行の危機」 「首都圏の混乱」「鉄道不通に対する代替交通」「復興のシンボルたる新幹線」といった記事 (主要なもの) が書かれています。もちろんその視点は鉄道的な 視点よりも経済的な視点からではありますが、独自取材である上に (当然ですが) 予定していた内容を差し替えて組まれた特集なのです。無論、何度も言うように 週刊誌と月刊誌という違いはありますが、これほどの変更と取材をするだけの意味がこの災害にはあるのです。そこが単なる狭い範囲の趣味誌に終わるか、より多くの 人々の手に渡る雑誌になるかの違いであると思います。紙媒体は「残すべきものは残す」というものでなくてはなりません。
きはゆに資料室長