夜行の終焉?

 この3月の改正は、夜行列車の終焉へまた一歩近づくものとなりました。「富士・はやぶさ」の廃止は「銀河」廃止時と 同じく、新聞・テレビなど各種報道で取り上げられ、ある種のブームと化しています。一方、「ムーンライトながら」、 「ムーンライトえちご」という青春18利用者にはなくてはならない列車たちも定期列車から臨時列車となり、臨時で走っていた 「ムーンライト九州」など、西の方の夜行座席車はひっそりと自然消滅した模様です。現在定期列車で残る夜行列車は「あけぼの」 「北陸」「北斗星」「日本海」「サンライズ出雲」「サンライズ瀬戸」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」(ともに隔日 運転)の寝台特急列車と「はまなす」「きたぐに」の寝台・座席急行列車、そして「能登」「ドリームにちりん」(下りのみ)の 座席列車のみとなりました。数えるほど...という表現まではいかないものの、全てを思い出せる範囲であることには変わり ありません。比較のため、12年前の1997年4月の時刻表に記載されていた夜行列車を表にしてみました。
  1997年のゴールデンウィークに設定されていた夜行列車
 簡単に出来るかと思っていたら、結構時間がかかりました(汗)。それだけ昔は夜行列車が多かった、ということです。 12年前でこれですから、全盛期の1970年代であればその列車本数は想像できません。

 さて、夜行列車の減少の理由は単に高速バスの普及やレジャーの多様化などのほかにも、様々な理由があります。近年では 鉄道会社側の事情というのも濃厚になってきたようにも思われます。
 まず、使用車輌の老朽化です。寝台車などは特殊な車輌であり、昼間はほとんど使用されないのが普通です。昼間使わない 車輌を新たに作るということは、現在の流れから考えてもまずありえないでしょう。座席車の場合は幾分か融通は利きますが、 減光装置がなければサービスとして厳しいものがあります。国鉄型車輌は昼夜問わず運行できるようになっていますので、 特急形でも急行形でも(場合によっては近郊型も?)使用する事が出来ました。しかしこれら国鉄型車輌も経年により老朽化で あったり、他の新型車輌を使用した列車のダイヤへの影響があるためその使用が厳しくなっています。一方、新型車輌の場合、 複数社にまたがることの多い夜行列車ではATSなどの保安機器の違いも問題になります。自社のみの保安機器しかない場合は 他社に乗り入れた際に安全上の問題が発生しますし、他社のものも搭載するとなれば費用もスペースも多く必要となります。 たとえ他社の機器を搭載しても、運用が厳しくなり結局は専用車輌化してしまいます。
 一般的には車輌面の問題が取り上げられますが、ほかにも様々な事情があります。まずは車掌など人の問題。深夜勤務という 問題は車掌も運転士も共通ですが、車掌の場合は様々な問題を抱えています。夜行列車の場合、特急などでは2人以上乗務する こともありますが、ムーンライトシリーズなどの快速などでは基本的に1人乗務ということが多くなっていました(昔は2人という こともありましたが)。青春18が使えない時期ならば乗車率もそれほど多くなく、全ての検札が終了するのも深夜に及ぶことは あまりなかったのですが、青春18シーズンとなると基本的に満席。しかも青春18の日付入れという余計な手間がかかり、長い 編成の列車では1時を過ぎてやっと...ということもありました。経験から考えると、1人乗務では6輌が限界のように 思えます。また、検札が深夜に及ぶと寝ている乗客をたたき起こすことなり、乗客とのトラブルもしばしば発生します。逆に こうしたトラブルを避けたいがために途中で検札を打ち切ったり、最初から行わなかったりということもありました。全席指定 にしたことで逆に負担が多くなってしまい、サービス低下につながるという皮肉な結果に陥っています。さらに乗客が多数いる 座席車ではホームライナー代わりとして利用する乗客も多く、中には指定券を持たずに乗車しているような場合も見られました。 どの号車までは検札は来ない、という乗車法をあみ出してタダ乗りされることも潜在すると思われます。
 一方、昔から存在する悩みの種と、近年になって存在する悩みの種があります。昔からのものはスリなどの車内盗です。 放送では毎回「貴重品は身につけて...」とありますが、実際のところこれがどれだけ効果があるかわかりません。実際に 被害に遭ったという現場には遭遇していないのですが、毎回アナウンスするということはこうした被害がなかった年はない、 ということなのでしょう。特に停車駅が多く、指定券だけ、または乗車券だけで乗車できたムーンライトシリーズでは大きな 悩みであったと思います。そのため停車駅を少なくするなどの工夫で、せめてもの抑止、または逃走防止を図っているものと 思われます。近年存在する悩みが指定券がらみの問題です。昔の列車には寝台列車以外にはたいてい自由席があり、指定券と いうものは必ずしも必要ではなかったのですが、全席指定とされると買わざるを得ません。特に需要がある列車では乗車直前に 購入などということはまず不可能で、ついうっかり時期を逸してしまうと計画が台無しとなってしまうこともありました。 そのような品薄状態に追い討ちをかけたのがネットオークションです。ネットオークションがなかった(発達していなかった) 時代にも指定券をヤミで売ることはありましたが、あくまでもそれは駅近辺に限られ、それもダフ行為として摘発の対象と なるものです。しかしネットオークションの場合、その指定券が出品されれば全国どこからでも購入ができ、個人での売買 という大義名分のためダフ行為であってもよほど目立たなければ摘発されません。そのため人気列車の指定券が転売のために 購入され、高値で売ろうとして売れ残り、結局乗車率の低下につながるという悪循環を引き起こすのです。乗車率が低下すれば 列車の存在意義も低下し、廃止といった方向に向いてしまいます。個人的には乗車率に影響する指定券をネットオークションで 売買することを禁止したほうがいいと思うのですが、みなさんはどのようにお考えでしょうか?

 24時間営業の社会になっているのに、旅客鉄道においては24時間体制というのが消えつつあるというのは何とも言えません。 逆にこうした24時間営業社会が夜行列車を必要としていない言えるのかもしれません。宿に泊まらなくてもカラオケボックスや ネットカフェ、マンガ喫茶など寝床代わりになる店舗なども増え、旅行者であっても夜行を使うという選択肢がなくなっているの かもしれません。もちろん夜行バスなどの存在もありますが、夜に寝ながらにして移動するということ自体が廃れているのでは、 とも思えてきます。かつての郵便・荷物列車のように、「昔は夜乗って朝に着く列車があったんだよ」という昔話にならない ことを切に祈りたいと思います。
きはゆに資料室長