黄色い線

 「まもなく列車が到着いたします。黄色い線までおさがり下さい。」

 駅でよく耳にするアナウンスですが、この文言について疑問をお持ちの方は多くはないと思います。もちろん、某テレビ番組で 取り上げられたような日本語の間違い(黄色い線まで→黄色い線の内側まで)ではなく、もっと根本的なことについてです。

 この「黄色い線」。本当に黄色い線という場合もありますが、ほとんどは点字ブロックの事を指します。つまり、列車到着時には 点字ブロックよりホームの内側に下がれ、ということ。もうお気づきでしょう。目の不自由な方の大切な道しるべが目印に使われて いるだけでなく、危険と安全の境界線上に設置されているのです。たとえ列車が接近していない時であっても、点字ブロックが ホームの端にあり、危険と隣り合わせであることには変わりありません。以前からこのことに疑問を感じ、先日旅をした際に乗り換えの ために降りた主要な駅の点字ブロックからホーム端までの距離を測定しました。以下の表がその結果です。
浜松-80cm 静岡-白62cm
黄80cm
熱海-80cm 池袋-100cm 新潟-90cm
富山-80cm 福井-80cm   参考→ 阪急-白99cm
黄142m
坂出-白83cm
黄100cm
 これらの駅ホームの画像が下の方にあります↓↓
 大体は端から80cmとなっており、広い駅では100cmを越えることもあるようです。これらの数値はホームの中心など、そのホームで 最も使用されている幅の部分を計測しましたが、別のホームや部分によっては数値が変化することもあります。駅によっては白線が その外側に並んで引かれている事があります。阪急の場合は白線が基準となっており、駅のアナウンスも「白線の内側に」と なっていますが、このように白線が描かれているのはJRでは少数派です(JR四国では積極的に白線が描かれているようですが)。 JRで白線が残っている場合、それは国鉄時代のものが残っているだけという事が多いようです。最近高架駅となった福井駅では 点字ブロックが「誘導」と「注意」が併記された新しいものが設置されていますが白線は描かれておらず、その幅も80cmとごく一般的 です。一方私鉄では大手では白線が比較的多く描かれている傾向にあります(関東の私鉄についてはほとんど未調査ですが)。
 そもそもこの点字ブロックの設置位置というのは決まっていないようなのです。点字ブロックの設置自体も交通バリアフリー法に よって定められていますが、これは新設する駅(高架化などホームを最初から作りかえる場合を含む)場合に限られ、既設の駅に ついては努力義務とされ、さらに利用者数の少ない駅ならば対象外となります。つまり、設置する位置や駅については鉄道会社の サジ加減となるのです。さすがに多くの人が利用する駅に点字ブロックがないということはありませんが、その位置やブロックの 種類、さらには老朽化したままの点字ブロック(タイル・シート)という問題は多くの駅であります。特にホーム端からの距離に ついては、その危険性に反し、安全な距離はどの程度なのか、という研究がされているのかわかりません。もちろんその駅の停車・ 通過列車の種類、速度、列車頻度などに大きな差があり、一概に数値を出す事が難しいのかもしれませんが、80cmが安全な距離とは 思えません。ましてやそこを通るのは目の不自由な方。そこには列車を待つ多くの乗客がいるのですし、荷物などの障害物が点字 ブロック上に置かれていることもあります。そのような状況でホームの端80cmを歩かねばならないのです。そんな状況で「まもなく 列車が参ります。黄色い線の...」と言われてもとっさに動けるでしょうか?別の列車がいたり、雑踏などでアナウンスが聞こえ なかったりすればより危険です。

 私がこのように目の不自由な方のことについて取り上げるのには理由があります。もちろん、鉄道が好きだとか、転落事故の ニュースを見たとかそういう理由もありますが、一番の理由は実際目の前でそのような危険な状況に遭遇したからです。
 今から5年ほど前のことです。私は阪急のある駅で列車を待っていました。鉄道好きの習性として列車の先頭が来る位置で 待っていたのですが、そこに目の不自由な方がお一人でやって来られたのです。私は当然同じ列車に乗るのだと思っていましたが、 その方は私の目の前を通り過ぎ、列車の止まらないほうへ歩いていかれたのです。その先はホームの先、しかもこの駅は退避駅と なっているため、ホームの端は細く、柵の幅も狭く転落の危険性が高い構造になっていました。慌てて私はその方に「もうその先 には止まりませんよ」と声をかけましたが、その方はこうおっしゃったのです。「出口はこっちじゃないんですか?」 そうなのです。 その方は列車に乗るためではなく、出口を探してホームの端まで来てしまったのです。私は改札口へ続く階段まで誘導しましたが、 その時聞いた話によるとその方は後ろから2輌目に乗っていらっしゃたということでした。その駅にある改札への階段は後ろから 3輌目あたりにあるのですが、おそらく電車が発する騒音により出口への誘導音が聞こえなかったものと思われます。比較的朝の 早い時間でしたので、出口へ向かう人も少なかったのでしょう。さらに私がホームの端に立っていなければ、この方はホームから 転落していた可能性も高かったのです。それ以来、私は特に目の不自由な方に対しては注意するようになったのです。

 これまで黄色い線=点字ブロックの位置について書いてきましたが、点字ブロックのない駅もまだ多くあります。それらの駅は 乗降客が少ないからということで設置されていないのですが、乗降客が少ないからといって目の不自由な方が利用しないとは 限りません。確立としては減るのかもしれませんが、ゼロではありません。そのような駅は当然無人駅ですし、列車の接近を 知らせる機器も不十分ということもあります。点字ブロックがない駅ならはまずはその設置を。そして点字ブロックのある駅ならば より安全な場所への設置と白線の設置による安全の二重化を切に望みます。

※ 文章中一般的に使用されていることを重視して「点字ブロック」と表記しましたが、「視覚障害者誘導用ブロック」というのが 正式な名称です。
 上表の計測駅の計測ホーム画像。福井駅よりあとは参考までに。
浜松駅3番線 静岡駅1番線 熱海駅5番線 池袋駅6番線 新潟駅3番線
富山駅4番線 福井駅4番線 阪急大宮駅 (讃)高松駅 東京駅
山手線外回り
きはゆに資料室長