営業係数

   営業係数というものを皆さんはご存知でしょうか? 簡単に言えば100円を稼ぐのにどれだけの費用がかかったかを示すものです。数値が100未満なら黒字、100を超えると赤字というもので、計算は経費÷収益×100で出します。かつては国鉄の赤字線の非効率性を示す指標となっていた営業係数ですが、JRに移行されたと同時に表面上は姿を消しました。新聞紙上からも鉄道雑誌からも姿を消した営業係数ですが、つい最近の新聞でこの名前を発見したのです。
 この新聞記事によると、名古屋市交通局のバス停に11月29日から各路線別の営業係数をその路線の主要なバス停に表示するということで、これは政令指定都市の公営バスでは初めてのようです。交通局の狙いは赤字の実態を利用者に知ってもらうことで利用促進を狙う、ということです。一例として係数が最も低い、つまり最も黒字率が高いのは藤ヶ丘〜本地住宅で66、逆に最も高い、つまり最も赤字率が高いのは春日駅〜両茶橋で953。全路線161のうち黒字路線はわずか6路線ということです(係数は2004年度)。これらの営業係数は名古屋市交通局のホームページ でも見ることができるようになっていますが、簡単に見つけることができないのでこのページ(16年度決算)からご覧下さい。なお、室長は名古屋の人間ではないので、掲載されている路線がどのような路線かは全くわかりません。
 「公営バスでは初」とあったのですが、民営バスでもこのような試みが行われているのかは知りません。ご存知の方がいらっしゃればご教授お願いいたします。さて、この営業係数はどのくらい採算が取れているかを見るには単純明快で便利なものですが、これはあくまでも「収益率」の指標であり「赤字額の指標」ではないこと、また使い方によっては赤字路線切捨ての恰好の口実および納得材料となりかねない危うさがあります。これは国鉄時代に発表された国鉄線の営業係数がいい見本となっています。
 営業係数が「収益率」を示すものということを先に述べましたが、これはあくまでも「100円を稼ぐのにどのくらいの費用がかかったか」ということを示したもので、実際の黒字・赤字額とは別物です。たとえば国鉄時代にワースト1の常連となっていた路線に「美幸線」という路線がありました。営業係数は開業後数年で1000を超え、最高は4780にまで達しました。一方中央本線は100を僅かに超える程度で推移していました。これだけを見ると美幸線はとんでもない赤字を生み出しているように思いますが、実際のところ美幸線の赤字額は中央本線よりも格段に低い額なのです。確かに効率は美幸線が100円を稼ぐのに4780円もかかる悪さですが、経費および収益のケタが違うためそれほどの赤字額にはなっていないのです。この2路線の1973年度の営業係数と実際の赤字額を見てみると、美幸線は係数2883で赤字額は8033.4万円の赤字、一方中央本線は係数115ですが赤字額は820088.8万円。つまり82億円と美幸線の100倍以上の赤字を生み出しているのです。このように営業係数には実際の赤字額を隠す危うさがあり、実際に膨大な赤字を生み出している路線よりも採算性が悪い路線だけを悪者に仕立て、路線廃止への口実を作ってゆくことになるのです。また、係数はそれほど悪くないが膨大な赤字を出している路線というのはいったん黒字に転換すればそこそこの収益を生み出すことができ、本来の経営改革はこういった路線にすべきなのです。不採算路線の廃止は赤字解消には最も簡単な方法ですが、組織全体を見た場合最も問題を抱えた部分については気がつかないまま、または見てみぬふりをして過ごし、結果として赤字は増え続けることになるのです。「市民にマイバス意識を持ってもらうため」と名古屋市当局は言っていますが、これが「路線廃止の納得材料」に利用されないよう願うまでです。かつての国鉄ローカル線のように。


きはゆに室長