非冷房車 

 沖縄と北海道を除いて梅雨明けもしていないのに暑い日が続いておりますが、皆さんこの暑さをどうお過ごしでしょうか。やはりこういうときは冷房のよく効いたところで涼むに限りますよね。特に外で暑い思いをしたあとの冷房というものはタマリマセンなぁー。鉄道でももはや冷房車が当たり前となり、ちょっとした都会のオアシスと化している様子です。しかし100%冷房化が達成されているわけではありません。年々非冷房車の冷房化が進んでいるとは言え、まだ非冷房車は存在しています。
 北海道でも冷房車が多くなってきていますが、非冷房車もまだそこそこ残っており、地理的な要素からも納得できるところがあります。それでは非冷房車の南限はどこなのでしょうか。電車に関しては保存目的の車輌や地方私鉄を除けば、おそらく本州内に非冷房車は残っていないと思われます。一方気動車は2エンジンという制約のため新津のキハ52が南限であると思われます。地方私鉄を含めると紀州鉄道のキハ604が南限だと思います。新津はかつて正真正銘の非冷房車の南限でしたが、近年キハ40と47の冷房化が進み、同系列の非冷房車は極めて少なくなってしまいました。全てが非冷房車、ということであれば盛岡が南限となるでしょう。

 たしかに暑い日は冷房の効いた車輌であることにこしたことはないのですが、非冷房車の「良さ」について考えてみましょう。まず何といっても風を切る爽快感です。近年では窓を開けられない車輌も多くなりましたが、窓を開け風を受けることは旅情というものもしみじみと感じられるものです。この風も不思議なもので、加速時と減速時に多く吹き込み、惰性となったときはほとんど吹き込みません(もちろん風が強ければ吹き込むと思いますが)。ですから風の影響というものもそれほど迷惑となるものではないはずです。このあたりの詳しい原理がわからないので胸を張って言えないのですが...。
 次にあげられる魅力としては、自然のにおいが感じられることでしょう。花輪線はご存知のように「よねしろ」で入ってくる列車以外は非冷房車のみで運転されていますが、高原地帯ということもあり極めて涼しい風が入ってきます。特に水田が広がる大館〜荒屋新町あたりなどは日本の原風景を感じさせるようなにおいを風は運んできます。山間部の山田線や岩泉線であればそのにおいは森の香りに変わります。非冷房車が少なくなった羽越本線村上〜酒田では水田のほか、海の汐風も感じることが出来ます。ぴったりと窓を閉じた冷房車であれば、こうしたにおいは停車中に外へ出なければ嗅ぐことはありません。まぁ、においを旅情のひとつとして楽しむのは個人差が大きいとは思いますが、こうした楽しみ方もいいのではないでしょうか。
 最後に、鉄道車輌の中で乗客が堂々と操作できるパーツであることも魅力ではないでしょうか。鉄道車輌のパーツのほとんどは乗客が手を触れてはならない部分ですが、窓に関しては乗務員より乗客の方がよく操作する珍しいパーツとなっています。特に非冷房車であれば、窓を開けなければ単なるガマン大会となってしまいます。最近では窓をうまく使いこなせる人も少なくなってきたのではないでしょうか。下段の止め金具のある窓は開ける人が多いのですが、上段窓を開ける人はあまり見たことがありません。ましてや窓を全開にする(2段窓の場合)人は極めて稀です。昔の映画であれば窓を大きく開けて手を振るというようなシーンがよく見られましたが、今では開いていればいいほうです。特に2段窓では上段窓は忘れれた存在となっています。しかしこの上段窓こそ最も通風に適しているのです。混雑しているときなどは、上段窓を開けていれば着席客に多くの風が当たらずに立席客に涼しい風を送ることができるのです。これに通風器を組み合わせれば、なお効率的になります。ついでにトンネルに入ったときに窓を閉めるというルールを決めておけば、蒸気列車時代の雰囲気を感じることも出来ます(蒸機時代は死活問題でしたが、今は気動車であっても騒音以外はさほど問題にはなりません)。窓を堂々と開けてちょっと玄人っぽい思いもできる、しょーもないことですがこんな楽しみ方もあります。
 このように非冷房車の魅力を挙げてみましたが、あくまでも旅行者の立場からの発想であり、常日頃利用している方には到底理解は出来ない部分であると思います。しかし地球温暖化の予防のためにも、冷房の使いすぎは控えたほうがいいのではないでしょうか。冷房車の中は大変涼しいのですが、冷房機器の真上は灼熱空間となっています。ある駅でホームへ降りようと階段を下りかけたとき、冷房機器から噴出すむせ返るような熱風を浴びたことがあります。冷やす分だけどこかで熱をばらまいている。それが冷房なのです。家庭であればこの熱を有効利用することも可能なのかもしれませんが、鉄道車輌では...。


きはゆに資料室長